声が聞こえる 【散文詩】
1月の最後の日の夜。月は、きれいだった。
「ま だ だ よ」
声が聞こえる。確かに聞こえた。向こう側に行こうと思っていたわけでは
行くことができれば、とほんの少し、ほんの一瞬、思っていた。それなの
に、そんな気持ちを打ち消すように、声が聞こえる。声に逆らって、言い 訳、口答えをしようとするわたしを、そんなことはさせないよ。そんなこ と、させないよ。そういって、首に手が巻き付く。指が首を離さない。
ぎゅっと、力が入る。指が首を離さない。口答えをしようとするわたし。
言い訳なんてしてはいけない。だけど、ほんの少し、ほんの一言だけ、声
を出したかった。言葉を発したかった。
首が締まるのは、この感覚を忘れないため。ほんの一言だけ、発したかっ
た言葉があったということを忘れないため。
声が聞こえる。怒鳴り声が、囁き声が、諭す声が、泣き声が、わたしのと ても好きな声が。声を抱きしめてみたい。
首が締まる。息ができない。吸えない、吐けない。いいえ、吐くことはで
きる。首が締まっても、首に手が巻き付いて、指が離れない離れたい、と
どんなに強く引っ付いても、離れることはできる。
ほんの一言、出したかった声を出すことが、きっと、できる、近いうち
に。