2時間だけの異空間
「初めまして」
そういえたら、どんなにか楽だろう。
初めて会うのだから、(噂には聞いていたとしても、実際には)どんな人かはわからない。こちらのことも、同じこと。直接会うことが初めてだったら、過去にどんなことがあったかなんて、そんなことは大事ではないはず。
初めましてではないから、初めましてのふりなんてできないから、わたしはどんな顔をしている。わたしをどんな目で見ているの。脳裏に張り付いてならない。その手が今までなにをしていたかなんて、そんなことを思い出す隙がある。まさか、こちらのことも同じこと。なんてことは決してない。
出逢いは突然。
出会いは、時々、続いていく。
消えていく、知らないことになっていく。
忘れていく、忘れてほしいと強く願った、一層、強く、強く。
それなのに、2時間だけの異空間を求めるなんて、どこか滑稽。
どの面下げて来れるかね、と思われるに違いない、
そう感じるのに、それなのに、その場に行かない選択肢を選ぶことはできない。こんなに悔しいというのに、もしかしたら(というよりもそれを目指し、挑み)あのときよりも、ほんの少しはちがったことばを得られるかもしれない、ちがったことばを求めて、最後に、最後に。
連絡を取ってみようか。
さむいですね おげんきですか
わたしはあいかわらずです、ないているひもありますわらうひもあるよ
なんだい、血迷ったか。
そんなことをするわけがない。
2時間だけの異空間まで、あと9日。