真夜中の看板持ち

待子あかねです。詩を書いています。白昼社より詩集『スカイランド』『スカイツリー』発売中。

朝になる

眠れない。

丑三つ時から新聞配達の声がする明け方まで。

 

凍結しました。いいえ、永久デリートしたのです。メモリーの塊。

それなのに、その欠片にアクセスしてしまいました。それはとてもいけないことです。悪いことです。悪いことをしてしまいました。悪いことをしたのだから、閉じ込められてしまうのです。

 

永久デリートした欠片にアクセスしたのは、それが安らぎだと記憶の奥底が覚えていたから。どんなにデリートしても、どんなにデリートボタンを押しても押しても押しても、実際に手で触れられる実体を消去しても、 記憶の奥底が覚えていたのは、それに代わる安らぎが、記憶の奥底にまだなかったからなのかもしれない。

それは、確かに安らぎだった。ほんの小さな欠片は確かに安らぎだった。それを確かめて、もう一度、しっかりとデリートした。それに代わる安らぎを、朝になったら見つけようと夢の中で、繰り返し叫んでいた。

 その欠片には決してアクセスしてはいけません。とてもいけないことです。悪いことです。悪いことをしてしまいました。悪いことをしたのだから、閉じ込められてしまうのです。

 押し入れの中に閉じ込められました。

「悪いことをする子は、押し入れの中に入っていなさい」

「押し入れの中に入っていて、出てこなくてもいいです」

 

 

号泣して、号泣して、号泣し続けてしまった。

「押し入れの中に閉じ込められたらこわいです」

 

 

涙も声も、枯れた。

そこにはどんな夢が残っているだろうか。

 

 

 

朝になる。

 

 

 

 

 

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