朝になる
眠れない。
丑三つ時から新聞配達の声がする明け方まで。
凍結しました。いいえ、永久デリートしたのです。メモリーの塊。
それなのに、その欠片にアクセスしてしまいました。それはとてもいけないことです。悪いことです。悪いことをしてしまいました。悪いことをしたのだから、閉じ込められてしまうのです。
永久デリートした欠片にアクセスしたのは、それが安らぎだと記憶の奥底が覚えていたから。どんなにデリートしても、どんなにデリートボタンを押しても押しても押しても、実際に手で触れられる実体を消去しても、 記憶の奥底が覚えていたのは、それに代わる安らぎが、記憶の奥底にまだなかったからなのかもしれない。
それは、確かに安らぎだった。ほんの小さな欠片は確かに安らぎだった。それを確かめて、もう一度、しっかりとデリートした。それに代わる安らぎを、朝になったら見つけようと夢の中で、繰り返し叫んでいた。
その欠片には決してアクセスしてはいけません。とてもいけないことです。悪いことです。悪いことをしてしまいました。悪いことをしたのだから、閉じ込められてしまうのです。
押し入れの中に閉じ込められました。
「悪いことをする子は、押し入れの中に入っていなさい」
「押し入れの中に入っていて、出てこなくてもいいです」
号泣して、号泣して、号泣し続けてしまった。
「押し入れの中に閉じ込められたらこわいです」
涙も声も、枯れた。
そこにはどんな夢が残っているだろうか。
朝になる。