真夜中の看板持ち

待子あかねです。詩を書いています。白昼社より詩集『スカイランド』『スカイツリー』発売中。

紺色のベレー帽

もう 何度も なつかしく 思い出しては遠ざかり
その日から また もっと遠ざかってきたというのに

選ばなかったことを ぼんやりと考えていた
なぜ選ばなかったのか ということは明白なはず
確かな強い意思で 選びたいことを選んだ
ただ それだけのこと

それなのに

選ばなかったことを ぼんやりと考えていた


そして また随分前の選ばなかったことを
ぼんやりと考えていた
それ以外の道があるなんて そんなこと 知らなかった
初めてのことばかりで 知っていくことが嬉しくて
楽しくて 覚えていくことが 嬉しくて
ただ それだけだった
それ以外の道は 決して見えなかった
そうではなく もしかしたら 見ようとしていなかった
それ以外の道を見ることが
それ以外の道を知る(認識する)こと自体が 怖かったのかもしれない
嬉しくて楽しくて

それは おそらく間違いではないし いいえ 間違いだったとしても 間違いでしたごめんなさい と謝ってしまっては(もちろん 詫びなければならない箇所もあるだろう)過去の自分を、過去から繋がっている今の自分を否定することになる

それは とてもかなしい

 

紺色のベレー帽

 

真っ暗な画面

 

もう 戻るなと
もう 戻れないと 
暗闇から秋の風にのって
叫び声のようなオーラを纏ったグレイのベールが
すっぽりと わたしを
わたしのすべてを 包んで

もう 動くことを
しばらく
忘れてしまった