真夜中の看板持ち

待子あかねです。詩を書いています。白昼社より詩集『スカイランド』『スカイツリー』発売中。

全部捨てたよ

「全部捨てたよ」

そう云えれば、どんなに楽だろう。

初めましてから、始めましょう。そんなわけにはいかない。わたしのことを忘れましたか。あなたのことを、忘れました。そんなわけにはいかない。

 

年の瀬、思い出。それは、荷物になる。なんて、そんなことは云ってはいけないよ。今日までの日々は、どうにかこうにかどうやらこうやら、季節を越えて、晦日までやってきました。

 

静かな場所。懐かしい景色。大切な気持ちを抱きしめて。理想の景色を心に見ることができるように。夜中の雨に惑う気持ち。年の瀬に吹く冷たい風。澄み切った美しい青い空。

 

自分の気持ちはどこ。タイムカプセルに埋めたのかしら。タイムカプセルを埋めた学校は取り壊されたから、もう、どこに行ったか分からなくなりました。

探せ、探せ探せ探せ。

 

わたしはどこ。

 

もうない景色のことを思うと悲しい。もう一度その景色を見たいんだ。もう一度その場所に行きたいんだ。もう一度、もう一度、なんて、そんなのは、詮無いことだ。

 

似たような場面、似たような科白だったとしても、決して同じ瞬間はない。

気持ちが重なって、歪んで、混乱してパニックになって、穏やかになって、癒されて、好きになって、嫌いになって、苦しくなって、好きになって、もう駄目だと思って。どうにかなる、どうにもならない。どうにか、なる。

今迄のことを思い出すことは、もうやめよう。思い出しても苦しくなるだけだ。似たような場面、思い出しても苦しくなるだけ。これからのことを考えてみよう。いいえ、そんなことは、ちょっと難しい。これからというよりも、少し先のこと、今日明日のこと、来月のことを、少し思い浮かべてみよう。

 

 

パソコンの中、いつでも待っていてくれる、もうない景色。

これからも、消えていく景色をいくつも見るのだろう。

その度毎に、胸に心に、その景色を焼きつけるのだろう。

そして、救われていくのだろう、きっと。

 

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