真夜中の看板持ち

待子あかねです。詩を書いています。白昼社より詩集『スカイランド』『スカイツリー』発売中。

「流れまち」

 

 

まちは いつも 顔を変えて

ずっと おなじところにいるはずなのに

いつも ちがうところにやってきているみたい

 

ここには メリーゴーランドがありました

ここには 観覧車がありました

ふたりが であったのは

このまち いちばん人気のジェットコースターもあって

いつでも おおにぎわいの遊園地

その遊園地が取り壊されると知ったのは

ふたりが友達になって

また 遊びに行こうよ 話していた

日曜の昼下がり

 

友達になれたと喜んでいて

また 会える日を約束していたというのに

「引っ越しすることになったから」としずこは そっけないメールをくれた

引っ越しするまでに また会いたいと伝えても

「ごめん、忙しいから」とつれない返事

 

日曜の昼下がり(外は雨)

しずかな喫茶店

だれを待つでもなく

ぼんやりと身を委ねている

 

きみとわたしは ちがっていて

きみとあなたも ちがっている

はじめましてとことば かわせば

なにか共通点をみつけられそうな気がして

そんなことを考えているよりも

無言のままでいるということに耐えられなくなった

ぼんやりとしているのに 疲れてしまっていた

 

共通点なんて たやすく見つかるわけもなく

それでも なにげなく かわされることばの

ひとつひとつが とてもやわらかで

わたしは しずこと 友達になりたいと思った

 

月とスッポンのような

しずことわたし

数えるほどしか会っていないから

もちろん わたしは しずこのすべてを知らないし

知らないことばかりだ

どこへ引っ越すの

だれかといっしょ

いろんなことを訊ねたいと思ってはみるものの

それは 踏み込んではいけないような領域だから

知らないことばかり

それは しかたないことで

自然なこと

 

わからないことだらけ

むずかしいことばかり

 

迷って

悩んで

巡って

巡った先から戻れなくなって

 

「あした お茶しない」

半年ぶりのしずこからのメール

待ち合わせに指定された場所は

ときどき ぼんやりすごしている喫茶店

しずこも ここのことを知っていたんだ

 

半年ぶりに会うのだから

少しは あった いろんなことを話したい 聞いてもらいたい

そう思っていたけれど

しずこの顔を見たら

みんな ふっとんだ

 

少しやせたような彼女の横顔は

昼下がりの中に そっと浮かぶ 月のようだった

月のように 姿を少しずつ 変えているのかしら

 

今夜は 上弦の月

 

 

 

こんなにきれいな月だから

持って帰りたい

持って帰って ずっと ずっと 眺めていたい

月が ほしいな

 

ほしいなんてぜいたく

わたしは 月になにもしてあげられないし

月は わたしだけと いっしょにいたら

きっと 疲れてしまう

 

ほしいなんて わがまま

わたしは 月のこと なにも知らないし

わたしは 月に なんにもできない

できないことだらけ

できないことばかり

 

ほしいなんて うそ

ほんとうのこと どこにもみえないから

どこにあるのか わからない

わからないことばかり

 

わたげのように とんでいけ

あじさいのように いろをかえていけ

 

気がついたら しずこはいなかった

 

しずこは いなかったけれど

うすいブルーのブレスレットが

ココアの横においてあった

すぐに それが しずこのものだと わかった

ねこ型の付箋

「疲れてるみたいだから 帰るね。また あおう、楽しかったよ」

ブルーのブレスレットは

とっても しずこに似合っていたから

わたしが 付けても 不格好だね

財布の中にしまって おまもりにしましょう

 

まちは いつも 顔を変えて

ずっと おなじところにいるはずなのに

いつも ちがうところにやってきている

 

ふと しずこに出会うより前

わたしは 一駅向こうに建設される高層マンションに住みたい なんて

くりかえし 描いていた と思い出す

 

気がついたら 数年がすぎていて

この先も 気がついたら もう数年 すぎていくのかしら

 

高層マンションは 5棟(いいえ もう少し 多いのかしら)建ち

わたしは そこに住んでいない

どうして そこに住みたいと思っていたのか

いまでは ぼやけてしまったけれど

しずこと出会う前

というよりも ずっと いままでは

すぐ目の前に 抱きしめられるものをつくっておかないと

どうしようもなかった

迷って

巡って

悩んで

くたびれて 

それで

抱きしめられるものがあれば

救われるような気がした

助けられるような気がした

 

描いていた幻が ぱちんと 消えたとき

幻なんて わたげのように とんでいって

幻を求めている人の胸で咲け

 

夢なんて あじさいのように いろをかえて

雨の中で 咲け

 

その角を曲がったところにあったお店はなんでしたか

向かいのお店は いつからオープンしていましたか

コンビニが駐車場になったり 駐車場がコンビニになったり

民家がつぶれて 一軒家になる

商店街は よくわからないイベントを よく開催している

毎回 大勢の人で にぎわっているというのだから

よくわからない と思ってしまうのも よくないのかもしれない

神社で忍者がショーをしていたときく

その忍者は ふだんは どこにいるのかしら

イベントが終われば 消えていく

 

ここが遊園地だったということを

しずこは覚えていてくれるだろうか

期待なんて むずかしく 不要だとわかっていても

少し

目をとじると

しずこの顔が 浮かぶ

 

どこへいくのか わからなくても

どこへいくこともできなくても

抱きしめられるものが あれば それだけで いい

 

今夜は 上弦の月

 

 

 

BY 2014.06