真夜中の看板持ち

待子あかねです。詩を書いています。白昼社より詩集『スカイランド』『スカイツリー』発売中。

劇中劇

誰にも言えない出来事の中で

誰かに話したい記憶を 二つ見る

 

幕は 上がりました

もう 引き返せません

科白を 度忘れしました

アドリブ アドリブ 時間を使い過ぎです

スポットライト浴びるのは もっと あちら側です

 

誰かに話したい記憶が出てくる

誰にも言えない出来事の中で 

その出来事は 劇中劇

そのシナリオを書いたのは わたしではありません

結末まで きっと 丁寧になぞって この劇中劇

 

科白を忘れました

忘れるわけありません 始めから決められていたのだから

なのに

科白を忘れました 何度も 何度も

だからといって

アドリブ アドリブ 時間を使い過ぎです

もう この場面はお終いです

 

展開

 

水たまりに 黒い涙がぽとり

ぽとり

やまない

水たまりは 真っ黒

 

反転

黒い水たまりに 透明涙がぽとり

ぽとり

やまない

水たまりの黒は 少し 薄くなっていく 

 

もっと 早く走りなさい

息切れは隠しなさい

幕はまだ下りていないのだから

まだ続いているのだから

勝手にお終いにしてはいけません

 

走ることなんてできません

息切れは 隠せません

歩くことは どうやらできるようです

幕は そろそろ 引きます

続いていることは もう そろそろ

なにもありません

 

ものがたりはつづく

うそは 少し 残っている

 

誰にも言えない出来事の中で

誰かに話したい記憶を 二つ見る

 

なつかしさが 人生の物語の中で 

切っても切れない大切な記憶が 胸に突き刺さる