夜空の向こうの王子さま
この空が、ずっと繋がっているなんてそんなことはなかった。
あなたは王子さま。
だれもが夢中になっている。だれもが憧れている。
だれもが、声をかけている。
王子さまに声をかけられる人は決まっている。美しい人。
きれいな指、きれいなイヤリング。きれいな、声。
こんなぼろぼろの指では、声をかけてはいけない。遠い遠いところにいるから。
こんなぼろぼろの服じゃ、声をかけてはいけない。王子さまの服が汚れてしまう。
こんながらがら声では、声をかけてはいけない。王子さまの耳が悪くなってしまう。
この空が、ずっと繋がっているなんてそんなことはなかった。
夜空の向こうの王子さま。
遠い遠いところにいるから、直接、話しをすることなんてできない。
でも、わたしは、向こう側に王子さまがいることを、ずっと知っている。
忘れようとしても、忘れられないのは、
どんなに遠く離れていても、忘れられない一言があるから。
たった一度だけ、随分と昔に、王子さまは、わたしにブレスレットをくれた。
嘘みたいな、夢みたいな出来事。
話しができるわけもないのに、言葉を交わすことができるわけもないのに、
王子さまはわたしを呼び出して、ブレスレットをくれた。
そのときにくれた、信じられない一言。
忘れられない一言。
夜空の向こうの王子さま。
あまりに遠いから、もう、声を聞くこともできないし、顔を見ることも、ない。
だけど、だから、
忘れられない一言を、王子さまの声を思い出して、胸に響かせる。
今夜だけは。
今夜だけでも。