真夜中の看板持ち

待子あかねです。詩を書いています。白昼社より詩集『スカイランド』『スカイツリー』発売中。

夜空の向こうの王子さま

 

この空が、ずっと繋がっているなんてそんなことはなかった。

 

あなたは王子さま。

 

だれもが夢中になっている。だれもが憧れている。

だれもが、声をかけている。

 

王子さまに声をかけられる人は決まっている。美しい人。

きれいな指、きれいなイヤリング。きれいな、声。

 

こんなぼろぼろの指では、声をかけてはいけない。遠い遠いところにいるから。

こんなぼろぼろの服じゃ、声をかけてはいけない。王子さまの服が汚れてしまう。

こんながらがら声では、声をかけてはいけない。王子さまの耳が悪くなってしまう。

 

この空が、ずっと繋がっているなんてそんなことはなかった。

 

夜空の向こうの王子さま。

 

遠い遠いところにいるから、直接、話しをすることなんてできない。

でも、わたしは、向こう側に王子さまがいることを、ずっと知っている。

忘れようとしても、忘れられないのは、

どんなに遠く離れていても、忘れられない一言があるから。

 

たった一度だけ、随分と昔に、王子さまは、わたしにブレスレットをくれた。

嘘みたいな、夢みたいな出来事。

話しができるわけもないのに、言葉を交わすことができるわけもないのに、

王子さまはわたしを呼び出して、ブレスレットをくれた。

そのときにくれた、信じられない一言。

 

忘れられない一言。

夜空の向こうの王子さま。

あまりに遠いから、もう、声を聞くこともできないし、顔を見ることも、ない。

 

だけど、だから、

忘れられない一言を、王子さまの声を思い出して、胸に響かせる。

今夜だけは。

今夜だけでも。