真夜中の看板持ち

待子あかねです。詩を書いています。白昼社より詩集『スカイランド』『スカイツリー』発売中。

「水晶玉」

 

いろんな声がきこえる

いろんな声があつまってくる

声をうけとめることぐらいしかできない 僕は水晶玉

 

明るい未来を映し出し

明るい気持ちに変えてあげる

そんなことが いつしかできなくなった 水晶玉

 

仲間はみんな 主に見つけられ 大切にされている

みんな いなくなって

川原にポツンと 転がされてしまっていた

雨風にさらされて ちっともキレイじゃなくなってしまっていた

 

声がきこえる いろんな声が 声をきいているだけ

声を受けとめるだけ

 

通りすがりの声

 

遠くの方の声

ときたま 珍しがって 話しかけてくる声

声をききながら 声を受けとめながら

僕は どんどん 空っぽになっていく

 

そんな ある日

 

髪の長い少女が 僕をひろいあげ 抱きしめた

そのまま 家に連れて帰り

毎日毎日 話しかけてきた

何も映し出すことのできない この僕に

 

彼女の声だけを聞くようになり

嬉しくも悲しい不思議な気持ちになった

 

いつまでも

彼女の声だけを聞こう

彼女の声だけを聞いていよう

 

そんな日が いつまでも 続くと思っていた ある雨の日

彼女は 元の場所へ 元いた あの川原に

僕を戻した

まるで そうあることが 正しかったかのように

 

明るい未来を映し出し

明るい気持ちに変えてあげる

そんなことが   できなかった    僕は水晶玉

 

いろんな声を聞いて

いろんな声を集めて

声をうけとめることぐらいしかできない

 

僕は 水晶玉